『東京R不動産』 『脱ファスト風土宣言』 『カフーを待ちわびて』 3冊の本を巡って

2006.4.5 | TEXT

僕が本をつくるのは、ものごとを立ち上げるときや動かすとき、もしくは動いているプロジェクトを一度まとめて次への足掛かりにするとき。大きくわけて、この二つの目的がある。出版という形式は、思いつきや小さな始動を社会化するのに、ぴったりだと感じている。

雑誌の『A』やR-projectの立ち上げの企画書代わりに用いた『R the Transformers/都市をリサイクル』、先月紹介した『POST-OFFICE』は前者、仕掛け型・企画書型の本。そして、このたび発売となった『東京R不動産』という本は典型的な後者。ウェブサイト「東京R不動産」の書籍版で、自分たちがやってきたことを一度見直してみよう、というものだ。

『東京R不動産』(アスペクト)
『東京R不動産』(アスペクト)

「東京R不動産」は主に物件を発見するためのエンジンで、「不思議な物件辞典」として閲覧している人も多いけど、主な目的はあくまで物件探し。では、そこで物件を見つけて、住み始めた人々はどんな生活を送っているのだろうか? はたまた、あの変わった物件はどんな人が借りたのか? ナゾは尽きないらしく、いろいろな場所で質問される。もちろん僕がそれを把握しきれているわけもなく、歯切れの悪い返事ばかりしていた。僕自身、興味もあった。強い個性を持つ物件や空間が、いったいどう使いこなされているのか。だから今回、このサイトから生まれたストーリーを本にすることにした。

その取材を通して伝わってきたのが、面白い物件は、面白い人々を呼び寄せるということ。ことごとく固有の物語が生まれている。数多くの物件ストーリーの中の、よりすぐりをレポート。物件と人が生み出す、さまざまなエピソードを、ぜひ読んで欲しい。

同時に、東京R不動産のスタッフがどうやって物件を探し、ウェブにアップしているのか。そこにはどんな苦労や楽しさがあるのか、一体どんなお客さんが……などなど、よく質問される内容は、この本を見ていただければ、なんとなく伝わるはず。

物件はホント、その人の人生を変えちゃうね、改めて実感。

時期を同じくして、『脱ファスト風土宣言/商店街を救え!』という新書も出版された。『下流社会』で一躍有名になった社会学者の三浦展・編集によるもので、僕はそのなかの執筆者の一人として参加。正月にチクチク書いた原稿が載っている。80枚近く書いたので、けっこう力作。「マイ・ロスト・シティと都市再生のストーリー」というサブタイトルのついた僕の原稿は、僕の青春時代と今やってる仕事の妙な連続性について書かれている。

『脱ファウスト風土宣言/ 商店街を救え!』(洋泉社)
『脱ファウスト風土宣言/
商店街を救え!』(洋泉社)

その他の著者には、みかんぐみの竹内昌義さん、隈研吾さんなど建築家から、オギュスタン・ベルクなど社会学の重鎮まで、ちょっとめずらしいラインナップになっていて、とてもリーズナブルだと思う。

最後に、これが最近のもっともビックリニュースなのだが、日本橋の事務所をシェアしていたキュレーターの原田幸子ねえさん(小説家名・原田マハ)が、突然、小説家デビューした。しかも恋愛小説で、しかも純愛で、しかもエイベックスから映画化される。最初、話を聞いた時には何のことかわからなかった。

彼女はアート・キュレーターで、六本木ヒルズにMoMAを誘致しようと尽力した人。その後、森ビルを辞めて、R-projectやCET、そして今の日本橋の事務所の立ち上げを一緒にやった、まあ、この数年の同志のようなものだ。『R the Transformers/都市をリサイクル』は共同執筆で、僕は「この文章、こうしたほうがいいんじゃない」などと、生意気にもアドバイスなんかしていた。今考えると冷や汗が出る。

彼女の『カフーを待ちわびて』という美しい小説は、沖縄の小さな島を舞台にした物語。最初、Open Aとその仲間たちの社員旅行(のようなもの)に、原田さんが付いてきたことに始まるのではないかと思っている。その時、原田さんは初沖縄体験。そういえば、「いつかは小説を書きたい」と、海を見ながら漏らしていた(ような気がする)。まるでその風景がフラッシュバックするような文章。掛け値なしに面白かった。アート・キュレーターだけあって、映像が頭の中を駆けめぐるようにやってくる。そして、無性に、あの沖縄の青い海で泳ぎたくなる。

『カフーを待ちわびて』(宝島社)
『カフーを待ちわびて』(宝島社)

原田さんの人生は、ほんと波乱に満ちている。今後、それをどんな形で小説化していってくれるのか、楽しみで仕方がない。

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「『東京R不動産』 『脱ファスト風土宣言』 『カフーを待ちわびて』 3冊の本を巡って」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)