本をつくった。『POST-OFFICE』。郵便局のことではない。次の時代のオフィスについて、正式名称は『POST-OFFICE/ワークスペース改造計画』(TOTO出版)。
かれこれ2年前くらいから、建築家集団のみかんぐみ、京都工繊大の仲さん、コクヨオフィス研究所の岸本さん、慶応大学の中西さんらとワークスペースについてのアイディアを貯め続けていて、それを本にした。
たくさんのスケッチと、ちょっと工夫された働き方のワンシーンを切り取ったようなスナップ写真の束。それらをスケール順に配列したアイディアブック。同時にコラムのかたちで理論編を盛り込んだ。現代のワークスタイルについての、アイディアと理論集になっている。
いつも思うのだけれど、これだけモバイルツールが揃った今、ワークスペースやスタイルが今までと同じでいいわけがない。にもかかわらずオフィスはなんて画一的なフォーマットのなかにあり続けていることか。
これはカンのようなものだけど、これから「職」に意識が向いてくるのではないかと思っている。衣・食・住の順番で洗練されてきたデザイン、次は「職」の番だ。僕たちは人生のかなりの時間を働いて過ごしている。今までも、そしてこれからも。「職」をデザインしていくことは、この時代の大きな命題になると思う。
僕のオフィスも少々変わっている。日本橋にある倉庫を改造した空間であることは前にも書いた気がするが、そこでは自分をワークスタイルの実験台にしている。例えば最近まで事務所には、僕の席がなかった。時には出かけている誰かの席を借り、時には空いているミーティングテーブルを使い、時にはソファに横たわってキーボードを叩く。無線LANがギリギリつながる近くの喫茶店で作業をすることもある。事務所にいる限り、誰かに声を掛けられ続けるので、集中したいときや原稿を書くときは、街のどこかに雲隠れする。オフィスは僕にとってコミュニケーションのベースキャンプでさえあればいい、という考え方だ。
ミーティングや取材の間を飛び回っていて、落ち着いて事務所にいる時間は減る一方。自分は移動をするために仕事をしているのではないかという錯覚にとらわれることもある。しかし、僕はその感覚が心地いい。都市のなかを飛び回る個人、というイメージが好きなのだ。
今では都市のさまざまな場所が仕事場になっている。意識のスイッチをカチッと入れるだけで、そこは仕事場にも打ち合わせ室にも、仮眠室にもなる。適度な街のノイズは、ちょうどいいマスキングになる。集中力は高められるし、街に溢れる記号はアイディアの源泉にもなる。もはや僕には雑踏こそ仕事場。
こんな感覚を共有できる人は、案外多いのでは?
本の宣伝に戻ると……、「働く」ことへの既成概念を一度疑いながら、この本を眺めてほしい。働き方が変われば、その環境も変わるはず。
*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「POST-OFFICE 新しい時代の働き方をデザイン」というタイトルで掲載された記事です。
(文=馬場正尊)