このところ、金沢に通っている。今回は「ケーススタディハウス・カナザワ」というシンポジウムのナビゲーター役で行ってきた。ゲストは、みかんぐみの竹内昌義さん、インテンショナリーズの鄭秀和さん、京都からFOBAの梅林克さん、そして東京と金沢、両方で仕事をしている小津誠一さんさんという面々。個性の強い建築家たち。
この企画は、金沢の地域活性化NPO、v.i.v.a.と、エイキハウスという工務店が、金沢にもクオリティの高い住宅を、これらの建築家たちとつくるというもの。そのテストマーケティングとしてシンポジウムが行われたというわけだ。もちろん、テーマは、イームズなどが自邸をモデルにして、1940-60年代にアメリカ西海岸でつくったケーススタディハウスが原型になっている。その土地らしい住宅を、実際につくりながら模索していこうというもの。それを金沢で行ったらどうなるのか? それが命題。
僕としては、ちょうど「東京R不動産」の地方展開をやってみたいと思っていたので、上記を機会に「金沢R不動産」ができないか、と思って相乗りしてみた。金沢という魅力的な街に通ってみたいという、いつもの下心も、もちろん隠せないが。「東京R不動産」は都心のファンクな空き物件、賃貸が中心だが、金沢の場合はどうも「土地」中心の掲載になるような気がしている。住む場所に関して、賃貸需要が少なく持ち家主義が強いからだ。その土地にあった「R不動産」のかたちがある。滞在中、兼六園や金沢城を素通りして、なぜか入り組んだ街路やら、川沿いの傾斜地やら、観光では絶対行かないような場所を徘徊することになる。まあ、それも街のある表情を観るようで楽しい経験だ。
おもしろい空間がいくつかあった。まず住宅地のなかに忽然とある和食の店、「玉響(たまゆら)」。傾斜地に建つアパートを改築したものだが、その使い方が見事だった。壁をブチ抜き巨大な窓がつくってあり、そこからは金沢の街が一望できる。かつてのワンルームの部屋が個室になり、部屋毎の壁と天井は異なった素材(漆喰や和紙など)で塗り込められている。ここ金沢の住宅地でも、こういったケーススタディが確かにあるのだ。魚が抜群においしい上に、僕より年下であろう女将がかわいい。そっちのほうが空間より印象的だった。
もうひとつ、新竪町商店街にあるアクセサリーの店「KiKU」。民家の壁、床を壊して店にしている。この商店街は、かつて栄え、その後、一時閑散としていたのだが、最近、こういったコンセプトの強いショップがジャックし始めた。初期段階の裏原宿のような様相を呈している。
インテリアもいいのだが、僕が気に入ったのが、そこに並ぶ銀の作品たち。蝋を彫刻して型をつくり、そこに銀を流し込んでつくるその造形は、どこか艶めかしくて、独特の質感がある。
ぬめっとした金属。
思わず一個購入。
これから時々、通うことになるこの街。少しずつ読みとって行きたい。
*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「「ケーススタディハウス・カナザワ」と「金沢R不動産」」というタイトルで掲載された記事です。
(文=馬場正尊)