文芸春秋の『TITLE』という雑誌の特集を手伝ったのだが、そこでは周到な文春の編集者にいっぱい食わされた。
リリー・フランキーさんとマドリストの佐藤和歌子さんとの対談は楽しかった。対談というより、おやじが若い女の子にいけないことを教えただけの与太話だった。リリーさんと僕の、屈折した経験が次々とカミングアウトされていった。その極端なケーススタディたちが、佐藤さんの役に立つとはまったく思えない。もしかしたら人生に悪い影響を与えてしまったかもしれない。『間取りの手帖』は、10万部も売れたらしい。すごい・・・。
今回の取材中に偶然見つけた、日本橋三越前近くの倉庫を借りてしまおうとしている。改装費不足や倉庫の持ち主さんへの説得などで苦戦はしているが、そのプロセスもまた楽し。貧乏人でも、なんとかなる都心のコンバージョンまでの道のりがある。すると、その経緯をそのまま記事にしようということになってしまった。できあがりラフ原稿を見ると、その見出しは、
「30男、汗と涙の人生ゲーム。馬場正尊の日本橋倉庫コンバージョン奮闘記!」
となっていた。オレはトラさんか!? さすがに「30男」と名前は削ってもらった。それを見た家族が悲しむ可能性がある。
その後、イラストの入ったゲラができあがってきた。呆然とした。30秒くらい口がふさがらなかった。でもカラーでできあがっていて、どうすることもできなかった。それを見た家族は、悲しむどころか誰よりも大笑いしていた。
まあ、それはいいいとして。
この特集を機に、東京をさまざまな方法で使っている人々を発見した。
とくに面白かったのは「新しい不動産の使い方」だ。不動産業者を捜して、礼金敷金を払って、原状回復をして、敷金の一部が戻ってこなくて腹が立って・・・僕らの物件探しの基本は、およそこんなもんだ。今まで他のオプションはあまりなかった。しかしだ、落ち着いて考えてみれば、そのシステムは疑問だらけ。そもそも九州には礼金ってのはなかった。
今回の取材では、その根本的な東京の住環境をめぐる問題を、トリッキーで創造力に溢れた方法で解いていった事例が満載されている。デザインに関しても、もちろんさまざまな工夫がされているが、僕が興味深かったのは、それにいたる前のシステムの部分への言及だった。東京には、まだまだたくさんの使い方が残っている。とくに「住む」という行為は、未開の方法論が眠っているように思える。楽しい時代になってきた。
ついに煙草まで・・・
とうとう煙草まで出てしまった。 このR-projectの拡がりはとどまることを知らない。中に使われている葉は、放っておけば捨て去られてしまう余った葉で・・・・・ と書いてしまえば、本当にそう見えてしまう。 これは現在、九州限定で売られているJTの新しい煙草。きっと、僕の九州の実家でも、ばあちゃんが自販機のなかに詰め込んでいることだろう。 「この煙草の箱、オイの友達がデザインしたとばい」 と、今度帰ったら自慢しとこうと思う。ASYL DESIGNの佐藤直樹さんがデザインした。だからやっぱり、R-bookのデザインと似ている。 時々思う。デザインやらR-projectに、もちろんまじめに向き合ってはいるけど、それは都市や資本を巻き込んだ、大きな悪ふざけなのかも。おもろくないと続かない。
おもしろき、こともなき世をおもしろく by高杉晋作
僕は、この句が大好きである。
*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「改めて思う。オレって三枚目。」というタイトルで掲載された記事です。
(文=馬場正尊)