日本橋フリークス

2003.3.25 | TEXT

 

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日本橋に注目している。
事務所を引っ越そうとさえ思っている。
今日は物件探しに行ってきたのだけど、その一帯は考えられないほどガランとさびれていた。店もまったく空いていない。シャッターがずらりと並ぶだけ。人も歩いていない。このまま放っておけばこの街は死んでしまうのではないかとさえ思える。にも関わらず、僕はこの街に異常に興味を持っている。
この街には小さなオフィスビルが乱立しているのだけど、それらがことごとく空いてしまっているのだ。僕は、これらを住居に機能変換できればいいのではないかと思う。オフィスとしては不便でも、ここは日本橋、都心のど真ん中、東京駅まではすぐ。地下鉄の駅もたくさん集中している。渋谷や新宿にも20分とかからない。

僕は、この街は大きなポテンシャルを持っているのではないかと思っている。
NYのチェルシー地区も、十数年前までは、今の日本橋のような表情をしていた。いや、もっとひどかった。犯罪も頻発し夜歩いてはいけない場所だった。しかし、そこにアーティストや建築家たちがアトリエを構え始め、店やカフェができ、そしていつのまにかにNYのなかでももっとも活気のある、そして地価の高いエリアに変わっていった。今、NYでは次のチェルシーとしてブルックリンやMPD(Meat Packing Districtの略、すなわち精肉工場が集まったエリア)が注目されはじめている。
僕は、それと同じようなポテンシャルを日本橋が持っているのではないかと思っているのだ。
日本橋という地名を知らない日本人はいないだろう。でもそこがどんな場所なのかイメージできる人は残念ながらほとんどいないのではないか。ちなみに、現在の日本橋は上の写真のようになってしまっている。僕は、正直ショックだった。首都高の下にひっそりと眠っている街。日本の都市計画の失敗を象徴的に表している場所なんじゃないかと思う。

ちなみに以前はこうだった。ちゃんと残しとけば観光地なのに。

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日本橋のオフィスはガラガラで、値崩れを起こしているのではないか。空いているよりも、僕らみたいなデザインや編集をしてる人間たちがいてもいいだろう。NYでもそうやってチェルシーに人が集まり始めた。自分たちが、街のパイオニアになってみたい、そう思っている。

日本橋には、ぐっとくる空きビルが実は多い。
不思議なファサードや装飾を持っているタイル貼りや漆喰の古いビルがある。

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ね、いい感じでしょ。

そして、これらのビルが空いているのだ。ざっと見渡してみても、日本橋のあるエリアは空室率は20%を超えているのではないかと思う。当然、街は活気を失ってしまっている。
すぐ近くには、神田川に屋形船が浮かんでいる。かろうじて江戸の風情を残している。また、その空気がたまらない。

江戸の残香の上に、乱暴な首都高の構造が覆い被さった不思議な場所となっている。そのアンバランスに、奇妙に引きつけられてしまう。 なんとなくこの感性に共感してくれて、日本橋をオフィスや住居にして、これからの街のパイオニアになってもいいなあという酔狂な人がいたら、ぜひ下記のサイトへ。まだ整備が進んでいないけど、徐々に物件情報なども掲載していきたいと思っている。※現在このサイトは閉鎖しています

東京の街の風景は大きな岐路に立っている。
日本橋ばかりではない。オフィスビルが空きまくる。2003年、六本木の森ビル、汐留、品川・・・今年だけで40本の高層ビルが竣工すると言われている。その供給量は史上最高。ただし、それらができあがる前でさえ、都心のオフィスビルは余っているにもかかわらず、だ。ちなみに2001年3月には0.8%だった空室率が、9月には4.6%に急上昇している状況である。そして、2003年、空室率は10%を超えると言われている。新しいビルはまだましで、古くなった中古ビルは決定的な打撃を受けることが予想され、それが「2003年問題」と呼ばれている。
おまけに東京の人口は減少を始めている。古いオフィスビルは決定的なダメージを受ける。そのソリューションを出していくのも僕らの仕事だと思っている。ガランとしたオフィスのような空間に住むのは、けっこういいのじゃないかと思っている。
なにはともあれ、新しい街のパイオニアになるっていうのはいいもんだ。

日本橋づいているのを契機に、気分がなんとなく江戸モードになり、まったくそっち方面の知識がなかったので、入口として江戸研究家の杉浦日向子さんの漫画など読んでみたのだが、それがめっぽう面白い。すっかりはまってしまった。粋ってこういうことかなあと実感したのだった。

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とにもかくにも、日本橋が熱い。

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「日本橋フリークス」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)