ポテンシャルビルディング

2003.4.5 | TEXT

 

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本格的に日本橋で物件を探し始めている。
事務所も日本橋につくりたいと思っている。
建築写真家の阿野くん(R-projectの本『都市をリサイクル』の写真を全部手がけた)が、日本橋小伝馬町に倉庫を見つけ、住居×スタジオ×仕事場×ギャラリーにコンバージョンしようとしている。信じられないことに、木造3階建て、一部4階ロフト、一部地下あり、貨物用のエレベーターがついてて、1階の天井高が4m・・・。200ð弱mもある。神田駅にだって歩ける。家賃は20万ちょい。原状回復義務なし。信じられん。改装にはかなり豪快さと覚悟が必要な倉庫だけど、それにしてもおもしろい。僕らは、いつのまにかにこういった物件を「ポテンシャルビルディング」と呼ぶようになっていた。

普通のビルオーナーから見ればただのボロビルも、僕らデザイナーから見ると味のあるビルであることも多い。オーナーにとっては周辺相場より安くしか貸せないかもしれないが、それでも空室のまま放置しておくよりはずいぶんいい。街に活気も出てくるはず。この事例が注目されることになれば、いったんは下がった不動産としての価値が再認識され、高値売却への呼び水にもなるかもしれない。死んだビルに新しい機能を吹き込むことで、それは復活する。

重要なのは認識のスイッチを切り替えることだ。狭くて古いオフィスや倉庫を広くて味のある住居へ、地味な東京の東を便利で歴史のあるエリアへ、寝かせているよりは安くても流動させる方へ、そして経済に縛られるデザインではなく経済をアフォードするデザインへ。そもそもデザインの領域を再認識するのがR-projectだった。そういう意味では、「ポテンシャルビルディング」を探すことがすでにデザインの始まりであるはずだ。都市のなかの見えないものを見ようとする努力も、今、とても大切なことのように思える。
そうそう、3/10に出版される『Invitation』に、この倉庫の改装前のまったく手をつけない状況が出るはず(取材は今週)。

R-projectの一連のスタディのために、今さまざまな雑誌から取材や編集の相談を受けている。その一つ『広告』では大きな特集を組んで、具体的なR事例を「東京R」と呼んでレポートしている。その取材のなかでは、アーティストの中村政人さんのトライアルも刺激的だった。書き出すと長いので、まずは下記のHP へ。
http://www.commandn.net/~momiji/

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不動産業界用語で「旗竿地」という新築の建物を建ててはいけない不思議なかたちをした土地があるのだが(敷地が道路にほとんど接地していない、旗のようなかたちの取り残された土地)、彼はそこの古い民家を借りて、自分たちの手でつくり変えている。その大胆さは新築よりもよりドラスティックだった。インタビューのなかでも中村政人さんは、都市の再認識の方法と、そこへアクセスするための具体的な方法、そしてそれに伴う身体性、リアリティについて話していた(4/1発売の『広告』に詳細)。視線の方向にはとても共感できた。
都市が再編集されるときなんだと思う。

気になることがある。
みずほ銀行や三井住友銀行が海外の基幹投資家向けの株を発行して増資しようとしている。最近まではそれは遠い世界で起こっている、よくわからない出来事だったのだけど、最近はR-projectで、ちょっぴり不動産やら資本の世界と触れることができることになって、その行為の意味するところをリアリティを持って感じることができる。

R-projectという都市の再認識のプロジェクトを始めておよそ1年半。その間に、プロジェクトに興味を持ってドアを叩いてくれる金融関係者や不動産関係者がたくさんいて、それによって僕も新しい世界に接することができている。がしかし、そのなかでまったく出会わない人種がいる。それが日本の大手銀行の人々である。彼らがもっとも多くの不良債権を持っているにもかかわらず、だ。おそらく日本の大手銀行は自分たちの所有する不良債権を「処理」することにしか興味がなく、それを自分たちの手で「魅力的に改善」していくという選択肢をまったく持っていないというのが、ほんとに実感できる。そうして処理された土地やビルは、外資が二束三文で買って瞬時に売りさばく。これって経済的な手法による占領じゃん? さらに銀行は「増資」という方法で海外から資金を調達して延命しようとしている。いつのまにかに不良債権を処理し終わった頃、きれいになった後の大手銀行の大きな資本比率を外資に握られていることになっている。処理される土地や不動産もまた外資を通り、差額の分は日本の資本がそのまま外国に流れる。こうして入口と出口の両方で大きなロスをしている。
僕は金融や経済の専門家では、もちろんないので建築やデザインというフィルターから見ているだけだが、それでも不思議なことだらけだ。
不良債権を膨大に持っている日本の銀行こそが、その価値を復活させるべくR-projectに興味くらい持ってもいいんじゃないかと思う、外資の前にね。それが釈然としないんだよなあ。

日本橋のポテンシャルビルをもうひとつ。

ある不動産会社に、こんなオフィスビルは住宅にならない?と言われた。窓からの風景はすごい。
ある不動産会社に、こんなオフィスビルは住宅にならない?と言われた。窓からの風景はすごい。

先日発見した例えばこのビルは、交渉前から7000円/坪だった。屋上からの眺めは、きっと花火のときなど最高だろう。浅草橋の交差点のすぐ近く。カフェやったり、住んだりしたい人、いませんか?
3月の終わりにでも、日本橋ツアーやろうと思ってます。

注目物件は、こんな感じ
注目物件は、こんな感じ

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「ポテンシャルビルディング」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)