Bookshop Café

2002.7.15 | TEXT

「R-project」という仕事に取り組んでいる。それは、昨年、青山を中心に行われた東京デザイナーズブロックに参加していたデザイナーやクリエーター、複数の企業、投資家などによって始められたもので、IDEE社長の黒崎輝男さんが呼びかけ人のようなかたちとなっている。「R」というのはRethink、Renovationのキーワードの頭文字で、なんとなくコードネームとして使っていた表現がそのままプロジェクトの名前となっている。考えて見れば、またアルファベットの頭文字、『A』もそんな感じで始まった(こっちは、ArchitectureやArt、Anonymousの頭文字)。

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R-project については『新建築』3月号の対談に詳しいが、簡単に言うと機能不全に陥った都市やそれを支えるシステムを考え直し、再生していこうというプロジェクト。僕はその実例やインタビューを集めたコンセプトブックを制作しようと取材を続けている。

先日、その取材でアメリカに行ってきた。一見、歴史のないように見えるアメリカだが「R」がとてもうまい。ビール工場がオフィスとレジデンスにRされていたり、古いオフィスビルが見事にホテルにRされていたり、デパートがミュージアムになっていたりする事例をたくさん見つけた。スクラップアンドビルドを繰り返してきた日本にとっては新たらしい手法であるかもしれない「R」は、ストック型の国では、どうやら当たり前に行われていることだった。とくにマンハッタンのビル群は、そのほとんどが1900年代の前半に建てられたもので、それを機能変換しながら今でも使い続けている。当たり前のことかもしれないが、改めて個別のビルを見てみるとその変遷は面白い。ビル人生を単一の機能で終えるものはほとんどなさそうだった。

一方日本では、オフィスビルはオフィスビルとして建てられ、つくられそして壊されている。用途を苦労して変更するより、建て替えたほうが手っ取り早いし面倒を考えるとそのほうが経済的にもリーズナブルだからだ、少なくとも今までは。でも、もうそろそろそのやり方、考え直そうよ、というのがR-projectの趣旨でもある。

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今回の取材旅行のなかでもっとも気に入ったのが、LAのBookshop cafe。それは古本屋をそのままカフェにしている。改装らしい改装もほとんどしてなかったんじゃないかな(もちろん厨房は入っていたけど)。ホコリをかぶった古本たちも、ここでは空間の道具立てとして壁を埋めている。訪れたのは夜の12時を回っていたけど、そこではPCを広げてミーティングや仕事をしている人、なにやら書き物をしている人など深夜にも関わらず混み合っていた。やたらと仕事をしている人が多かったのが特徴的で、それはやっぱりもとが古本屋だからなんだと思えた。気が利いていたのは無線LANでネットワークにもつながっていたこと。古本屋の空気の名残とそういった今っぽいサービスのギャップが、なんとも言えず心地よかった。

僕がサラリーマン時代、職場が神田の古本屋街のすぐ近くにあって、その界隈を日常的にウロウロしていていた。床から天井までびっしり本で覆われていて空間的にはものすごく魅力的なんだけど、いったいこの空間(というか古本屋)にどういう顔でどう入っていけばいいのかわからない店がたくさんあったのを覚えている。奥にはかなりの確率で人なつこいとは決して言えないおじさんがどっしり座っているのが見える。そうそう、あんな空間がカフェだったら・・・と思えた。

同じような内容の仕事をしたとしても、スタバと古本屋のBookshop cafeでは、思いつくアイディアも導き出される結果も、ずいぶん違うような気がしてならない。僕は、洗練された空間のなかより、いろいろな無駄な情報やら蓄積された人々の雑考のなかにまみれながらモノを考えるのが好きだ。「R」的行為の楽しみは、その空間や場所が持っていたコンテクストや空気感が、そのまま新しく附加されたり引かれたりした機能のなかに、ちゃんと残っていることなんだと思う。今、10月の発行に向けて、いろんな「R」を集めている。

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「Bookshop Café」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)