はじめに
Chapter 1 これからの図書館を考える
Chapter 2 新しい図書館を旅する
Chapter 3 都市のような図書館をつくる
おわりに
■本は人と実空間をつなげる媒体
図書館的機能が建物の中に収まっているだけでなく、街中に拡がっていれば。そんなイメージを既に実現した街がある。長野県小布施町の「まちじゅう図書館」。2012年に始まった取り組みで、街のあちこちに小さな本棚を点在させることで、町全体を図書館にするというプロジェクトだ。
店先や蔵、自宅の玄関口の余った空間に自分の好きな本を置いておく。街を歩く人がそれに響けば、そこからコミュニケーションが始まることだってある。本のある店や家のネットワークは地図にまとめられ、住民も観光客もそれを片手に街を巡っていく。
本という物体が、図書館と街の小さな場所を具体的につないでいる。
ウェブサイトであればリンクを張る、ということに置き換わるのだろう。それは確かに便利だが、関係性はデジタルで空間的なつながりではない。
わざわざ本棚を置き、本をセレクトするといった少々面倒なプロセスを踏むことにより、図書館とその他の場所との実空間的なつながりを生んでいる。
こうやって街の至るところに本棚があり、人々がそれを意識することができれば、バラバラだった街の機能が、まるで本として編集されるかのようにまとまって見えてくる。
それは、図書館がきっかけの、本が媒体となったまちづくりのようでもある。
■屋台の図書館が、街に出没
OpenAが別府市新図書館の基本計画段階で実施した「モバイルライブラリー」は、屋台のような小さな移動図書館。実験期間中、市役所や駅、ショッピングセンターなどに出没させた。
目的は、図書館が新しくなることの告知や、図書館の存在を市民に身近に感じてもらうことだった。
見慣れた街の風景の中に本の屋台が置かれ、小さな違和感がフックとなり、ちょっと立ち寄って本を眺める人々の姿が見られた。意外な場所での、意外な本との出会いを演出する小さな装置である。
ちょっとした工夫で、図書館的要素を街に散らばらせ、市民の日常の中に溶け込ませる。
※写真(別府の屋台図書館)
そもそも日本には移動図書館があり、本をたっぷり積んだ車が図書館本体から遠い地域や学校を定期的に訪れていた。人々がそれを心待ちにし、やってきた時には周りが華やいだ。現在でも一部の地域では実施されているが、車両を移動させたり、図書館を新たに整備したり、維持し続けるための予算や人員の配置は難しくなっていると聞く。
だとするならば、その分身のような屋台の図書館が、街のさまざまなところに散らばっている。その場所に関わる人々が、図書館と連携しながらコンテンツを考えたり、本をチョイスしたりする。自立分散型のネットワークを、図書館的機能がつないでいく。
■台湾式・散らばる図書館
台湾でも、都市に散らばる図書館が体系的に展開されている。この本で紹介した「知恵図書館」は、無人運営型の小さな公共図書館。本をRFIDタグで管理することでセルフサービス方式をとり、台北市の中心市街地にある駅や空港、公園などの公共空間に設置されている。
駅の通路ではジュークボックスのような図書館マシンを見かけることがある。本の貸出や予約本の受け取り、予約の受け付けなどの機能があり、知恵図書館をさらにコンパクトにした無人図書館だ。このように駅や移動の結節点に、機能的でアイコン的な本のプラットフォームがあることもおもしろい現象だ。

■本が場のアイコンに
台湾といえば、図書館ではないが、市民にとっての文化の中心地でもあり、もはや観光地にすらなっている誠品書店がある。本のアイコン性を存分に使い、本屋を新しいタイプの商業空間へと昇華させた。旅や観光の書棚の周辺に旅行関連のショップが並び、ファッション雑誌の周りにアパレルショップ、絵本の棚のそばには、おもちゃなどの子ども商品が配置されている。
本を眺めて、気分が盛り上がったところで、その横に購入の場がある。消費心理をダイレクトに空間化した構成は、本という物体の不思議な魅力を最大限に引き出しているように見える。誠品書店は本屋の複合化の可能性を拓いたのと同時に、本が周辺環境のアイコンとして有効性を示した。
■書店3.0へ
雑誌や週刊誌などを中心に情報を販売する従来のビジネスモデルを書店1.0とする。そして、多商材化・多機能化した誠品書店を書店2.0とするならば、その次なる書店3.0は独立系書店といえるだろう。台北市の中心地にはユニークな独立系書店が街に点在しているのを見かける。日本でも都市部を中心に、独立系書店が静かに熱く盛り上がりをみせている。
店主のキャラクターや価値観が反映された品揃えや店づくりが特徴で、特定のジャンルに特化していたり、ちょっとマニアックなセレクションが楽しめたりする。本の販売だけでなく、読書会やトークイベント、ワークショップを開催するなど、文化発信やコミュニティを育む役割もある。
デジタル化されて今やどこでも本が読める時代なのにもかかわらず、なぜ人間は本という存在に惹かれてしまうのだろうか。都市に小さな書店が散らばるという現象は、そんな人間の不思議な性(さが)を象徴的に表しているのかもしれない。
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Chapter1
これから図書館はどうなっていくのだろうか。図書館や書店など、本のある空間に対しての再認識と、これからの姿の探求を始める。
デジタル化の進展に伴い、本とそれを取り巻く環境は大きな転換期を迎えている。かつて生活必需品であった紙の本は、出版不況や書店の減少とともに「嗜好品」としての側面を強め、装丁にこだわった高価な特装版が作られるなど、物体としての希少価値が高まっている。また、情報の鮮度や流通性を重視する「フロー型」の書店に対し、図書館は時間を超えて地域の知識や記憶などの文化を蓄積する「地域の知のストックの場」としての役割を担い、所有の概念が異なる両者は補完し合う存在となっている。
書店の数が減少する一方で、図書館の数は微増傾向にあり、その在り方は多ベクトル化している。かつての静かで閉鎖的なイメージから脱却し、カフェ等を併設して地域活性化に直結した「にぎわい型」をはじめ、他施設と一体化してシナジーを生む「融合型」、商業施設内で利便性を高める「テナント型」、特定の利用者層にターゲットを絞った「特化型」などへと進化を遂げてきた。実は書店も図書館と似た進化を遂げているのもおもしろいポイントだ。
近年では、制度の枠組みに縛られない民間主導の「本を軸にした新しい施設」や、行政自らが書店を運営する事例も登場しており、図書館と書店の境界は曖昧になりつつある。
物理的な本や、本に囲まれた空間が持つ独自の価値も再評価されている。スマートフォン等により人々の生活時間が細切れになる現代において、読書は一つのテーマにじっくり向き合い、「まとまりのある時間」を回復させる装置として機能する。また、圧倒的な「本の密度」による好奇心の刺激や没入感に加え、本が放つインクのにおい、空間の音を吸収することで生まれる穏やかな静けさなど、五感に深く働きかける空間体験は、デジタルでは代替できないリアルな場ならではの大きな魅力だ。
これからの図書館は、単なる情報提供施設や本の貸出機関にはとどまらない。最新のデジタル技術を取り入れたスキル育成、生涯学習の支援、多言語・異文化交流、コワーキングスペースとしての活用、さらには高齢者等への心理的サポートなど、多機能な地域コミュニティの中核へと発展していくだろう。人々の多様なニーズにワンストップで応える社会的インフラとなり、動的な社会的空間として地域の核を形成する「都市のような図書館」へと進化していくはずだ。
COLUMN:
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