テラスハウスという住居モデルを知っているだろうか。それは今、改めて注目している集合住宅のカタチだ。
テラスハウスとは、複数の戸建て住宅が壁を共有しながら連続している低層集合住宅のことだ。各住戸が地面に接し、庭を持っていることが普通のマンションと大きく違うポイント。
昭和初年代、初期の団地にはテラスハウスが数多く、見られた。急激に人口が増え始めるなか、初期の団地にも数多く採用されている。名作として有名な前川園男設計の阿佐ヶ谷住宅、昭和天皇が視察したひばりが丘団地の一部等など。しかしその多くはすでに解体されたかそれを待つ運命にある。
自分の記憶をたどれば小学生の頃、テラスハウスの借家に住んでいた友達がたくさんいて、一緒に遊んでいた風景が目に浮かぶ。庭先から靴を脱いでそのまま居間に上がり込み、ちゃんと玄関側から入った記憶はない。屋外と室内を往ったり来たりして遊んでいた。あのテラスハウスはまだ残っているだろうか?
テラスハウスは、ヨーロッパでは今でも都市部の住まいとしてスタンダードだが、日本ではめっきり見なくなった。高密度の都市部では土地利用効率が悪いために、日本はより高層化の道を選択したからだ。また、「テラスハウス=長屋」という構図が目本人の頭にあってリッチな感じがしなかったのも大きかったのではないだろうか。しかし、住む側にとってはメリットが多い住居モデルである。低い建蔽率、容積率でゆったりと建っているからゆとりがある。庭と居聞が続いているような感覚で、のびのびとした生活ができる。
東京から失われかけていたテラスハススだが、昨年発見された。JR田端駅のトンネルの上に建っていたから、積載荷重に制限があり、高層マンションのような大きな建物が建てられなかったらしい。かつては国鉄の家族寮として使われていたらしいが、かれこれ5 年以上空き家になっていたようだ。それを再生したのが、僕の事務所 Open A が手掛けたプロジェクト。一階には土間や縁側をつくり庭とつなげてみた。窓を開ければ自の前で、畑をつくったり、BBQ をしてみたりと普通の集合住宅にはない自由がある。惑が南北両面にあるので風が思いっきり通り抜ける。40年前の様式なのでエアコンに額らない段計におのずとなっている。メゾネットなので一階に開放的なダイニング、二階にはプライバシー重視の個室や寝室と、フロアで分割している。そのメリハリは普通のマンションでは得難いだろう。隣近所の気配を感じつつ、適度な距離感のコミュニティが生まれそうだ。今だから改めて魅力的に見えてくる。
東京R不動産で告知をして内覧会を行ったら、なんと50組近い人々が訪れてくれた。僕が空間の説明をするまでもなく、人々はさまざまな住み方を空想しながら敷地内を歩き回っていた。空間の余白はそのまま想像力の余白にもなる。
そんな風景を見ながら、東京から消えたテラスハウスは一周遅れで時代が求める集合住宅のカタチなのではないかと考えた。次は、新築のテラスハウスをつくってみたい。
*こちらの記事は季刊誌『ケトル vol.12(2013年4月13日発売)」に「馬場正尊は約40年前のテラスハウスにこれからの時代の住空間の可能性をみた」というタイトルで掲載された記事です。
(文=馬場正尊)