新しい本を書いた。
『都市をリノベーション/The City Conversion』(NTT出版)。この7年間に僕が考えてきたこと、Open Aが手掛けてきたリノベーションの数々を1 冊にまとめたものだ。
この本の骨格を支えるメッセージは以下の3 っ。
①すでにある都市を使う
②デザインすべき場所を探す
③建築の領域を再定義する
建築ではなく「都市をリノベーション」としたのは、単体の建築に対しての思考や手法が、都市全体に対しても援用できると感じ始めたからだ。
普通の建築設計は、与えられた敷地や条件に対しデザインを開始するもの。しかし、数多くリノベー ションをしていると、それだけでは通用しないことばかりが起きる。元々問題のあるビルだから、デザイン以前の問題で、根源的なところから考え直さなければならないことが多い。これを繰り返しているうちに、果たして「デザインの本来の領域とは何か」を聞い直すことになった。
状況をつくり出すことこそ、デザインのもっとも重要なフェーズなのではないか、と気が付き始めた。この本では、それらの背景から実現に至るまでのプロセスを特に丁寧に描いた。
米国へのクl ススタディのレポートから始まり、東京でいかにして建物を再生していったか。点の変化が街へと広がるプロセス、その中での試行錯誤を綴った。法規や予算との戦い、東京R 不動産などのメディアのっくり方、CET のようなイベントをいかにプロジェクトに組み込むか—。
地方都市、郊外、公共空間、リノベーション特区構想など、新しい領域に向けてのトライアルや提案によって、今後のリノベーションの可能性を模索している。
「デザインすべき場所を探す」こと自体が、デザインの始まりなのではないだろうか。今まで、なぜか建築はその作業を範轄外とし、不動産業に委ねていた。その場所の眠った可能性を発見し、引き出すことも建築の仕事だと考えた瞬間、仕事や創造力の幅が広がる。だとすれば、僕はその領域へも越境したい。
*こちらの記事は季刊誌『オルタナ25号(2011年6月30日発売)」に「点から面へ、建築から都市へ」というタイトルで掲載された記事です。
(文=馬場正尊)