R>>THE TRANSFORMERS 都市をリサイクル

2002.11.5 | TEXT

 

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本を書いた。 今進めているR-projectのためのコンセプトブックのようなもので、文字通り「都市をリサイクル」するためのケーススタディ集だ。
デザイン的な切り口ばかりではなく、不動産や行政施策、さらには誰かが始めた小さな街角のレストランによって都市が姿を変えていく様を追いかけた。

この日記のなかにも時々書いているアメリカでの取材がベースとなっている。はっきり言って、最近のアメリカはどうかしていると思うし、正直嫌いだ。でも、資本主義の針のようなものがあるとすると、それが右に振り切れようとしている瞬間だから起こる矛盾のなかで、せめぎあいながら新しいシステムを同時に模索している個人の姿もそこにはある。社会が攪拌され、沈殿した後に残る透明な部分を見つめ直す、この取材はそのような作業だったように思う。

NYのブロンクスの街角に小さなイタリアンレストランがオープンしたことで、街の質感が変わっている。マンハッタンブリッジの足下で、数人のキュレーターやアーティストによってアートイベントから、廃墟の街が少しずつ活気を取り戻そうとしている。

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ある建築家が、小さな倉庫を住居に変え、自らそれを賃貸しはじめた動きが一般化し、シカゴにコンバージョンという新ライフスタイルの選択肢を生む。
詳しくは本誌を見て欲しいが、ささやかなことが、都市の風景を変えていく原動力になっていくプロセスや発端を、たくさん見つけてきたつもりだ。そして、そういった風景はなぜか美しい。美しい風景には、必ず背景がある、と最近よく思う。
最初は大げさではない、ちょっとしたことや個人から始まり、都市の風景は変わっていく。それがおもしろくて前向きなことならば、不思議とまわりが動き出す。その最初の発見、気づきと、それを一歩前に進める行動力がこのような現象を起こしている。重要なのは継続することだと、これらの事例が語っている。それを実感した旅だった。

取材という行為は、僕にとって旅の言い訳のようなものになっている。今回も、それを口実に東京をドカンと空けてしまい、方々でひんしゅくを買い続けた。それでもやはり僕は、どこかに行かなければ気が済まない。
ナカサ&パートナーズの超多忙な写真家の阿野くん(彼の写真集と言ってもいいようなもので、すべて彼の撮り下ろし)と、アートキュレーターの原田さん(彼女が通訳もしてくれた、文章も一部書いてくれている)と3人のデコボコ珍道中。やじさんきたさん状態。ある程度の骨格を日本で考えてはいたものの、後は出たとこ勝負、おもしろい情報を聞けば西に東に、気まぐれに飛び回った。でも、一冊の本になってしまえば、それは不思議と奇妙なまとまりを見せてしまうのは、とても不思議なことのように思える。本のマジックのようなものだ。いろいろな記事は、そこに収まるべくして収まっているように見える。
まあ、著者の勝手な思いこみかもしれないけれど。

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この2週間は、この本と、東京デザイナーズブロックのために、てんやわんやの日々だった。「青山マンション」という246沿いの使われなくなった、そして来年には壊される運命にある廃墟のビルが一週間だけギャラリーとなった。僕らはそこで、この本の先行販売をしたり、新作家具・プロダクトの発表をしたり、期間中だけのBarをつくったり。廃墟空間も、真っ白に塗られ光を入れるだけで、驚くほどいい空間になっていた。それは、時間が積み重なることでしか決して醸し出すことができない空気をはらんでいる。あの空間を体験した人々は、それを十分に味わうことができたはず。そういった意味で、この本が最初にその場所で販売されたことは象徴的だった。
発表した新作家具も好評で、近々、そのなかのいくつかは商品化されそうだ。
この展開は、また後日詳しく。

『R>>THE TRANSFORMERS 都市をリサイクル』は、10月の終わり頃から、書店に並び始めます。

※ R-projectとは?
Rは、Rethink、Renovation、Recycle……時代のキーワードの頭文字。
対象としているのは、建築や空間のデザインばかりではなく、

モノのデザイン

空間のデザイン

コミュニティのデザイン

資本の流れ(マネーフロー)のデザイン

考え方や物事の捉え方のデザイン

それらをどれも内包している、デザインの領域の再定義のようなもの。
建築家、デザイナー、写真家、キュレーターから、不動産の専門家、イデーなど、さまざまな職能が集まって、なんとなく始まって進行しているプロジェクト。正直、参加して本までつくってしまった僕でも、このプロジェクトを正確に定義するのは難しい。
要は、R-projectという言葉をキーワードやきっかけにして、みんなが勝手に都市のリサイクルを方々で始めている、という状況を指しているんではないかと、最近は思っている。
ただ、そういったアクティビティを、東京が求めていることだけは、確かだ。

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「R>>THE TRANSFORMERS 都市をリサイクル」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)