「新しい郊外」の家

2009.5.31 | TEXT

 

房総の家の外観。海辺の松林に囲まれた砂地に、ポンと置かれるように建っている (C)DAICHI ANO
房総の家の外観。海辺の松林に囲まれた砂地に、ポンと置かれるように建っている (C)DAICHI ANO

 

昨年末、僕が房総の海辺に建てていた「房総の馬場家」(すなわち自宅) が竣工した。このプロセスは、僕の環境や身体に対する、ここ数年の意識の変化そのものだ。なぜ房総に土地を買い、住み始めようと思ったのか。

それまで、僕は賃貸派。一生、賃貸マンション暮らしでいいと思っているタイプだった。都心にフットワークよく住む、それが合理的だと信じて疑わなかった。しかし最近、都会の喧噪に20年間も曝され続け、体内に少しずつ悪いモノが蓄積されている感覚を感じ始めていた。このまま都心生活だけでいいのか。それは本当に豊かなのか。そういった危機感に近い疑問を抱き始めたのが2年前。40歳の足音が聞こえるようになったある日、東京から一時間半、外房の海辺に魅力的な場所を見つけてしまった。土地の値段は同じ時間距離の湘南の1/10-1/20程度。300メートル歩けばサーフィンのできるビーチが、ドーンと広がっている。

とはいえ、仕事の中心は東京。毎日通わなければいけないし、まだバリバリ働きたい。そこで気が付いたのが、「新しい郊外」という概念だった。

それは仕方なく住むベッドタウンとしての郊外ではなく、積極的に目的意識を持って住む郊外。僕の場合の目的は、海とサーフィン(引っ越しを機に始めた)、そして自分や家族と向き合う時間。

馬場家(夫婦と子ども二人)は、房総に自宅(この家)、都心に小さなマンション(こっちが別荘)を借りて、ダブルハウス生活をしている。仕事場まで一時間半なので十分通勤圏。でも、忙しいときは都心の部屋に帰る。ローンと家賃を合わせても、都心部の80-100平米のマンションを借りるのと同じくらいだ。

今年1月14日に、この家ができるまでのプロセスを書いた本が出版された。ちょっとした気付きから家を買って作るまで、それに至った家族の経緯、そして僕の考える都市論を書いてみた。特徴的なのは、土地を買ったり、家を建てたりすることに対する、謎や微妙な部分を、あえて全部書いている部分だろう。小さな設計事務所の経営者が果たしてローンが借りられるのか。それはいくらか。そのためにはどうやったらいいか。土地はどうやって探し、買うのか。

また、家を建設する場合は何がポイントなのか、どうすればコストを抑えられるか。見積もりまですべて公開している。今まで、建築家も不動産会社も銀行も、曖昧にしていた部分を、全部、ガラス張りにしてしまった。勢い余って、家のデザインまでガラス張りにしているが。

馬場家の今後はどうなっていくのか。それは「房総R不動産」ブログで今後、報告していく。

とにもかくにも、僕はここで生活を始めた。

 

*こちらの記事は季刊誌『オルタナ12号(2009年3月号)」に「新しい郊外』の家」というタイトルで掲載された記事です。

オルタナ

(文=馬場正尊)