東京イーストエンドツアー

2003.5.25 | TEXT

ビル街のなかを御輿が練り歩く。 小伝馬町の「傳」の文字を背中にあしらった、はっぴがカッコいい。
ビル街のなかを御輿が練り歩く。 小伝馬町の「傳」の文字を背中にあしらった、はっぴがカッコいい。
江戸っ子のおやっさんたち。交差点で缶ビール。紺のはっぴを着た人たちが祭りのプロらしく、みんなに尊敬されているようだった。
江戸っ子のおやっさんたち。交差点で缶ビール。紺のはっぴを着た人たちが祭りのプロらしく、みんなに尊敬されているようだった。

神田祭に行った。

『R the Transformers 都市をリサイクル』を一緒につくった建築写真家、阿野くんが日本橋小伝馬町に自宅×事務所×駐車場×ギャラリー(?)スペースをつくったことは以前の日記にも書いたけど、そこでは日常の営みが始まっている。 この日、阿野夫妻は、近所の江戸っ子たちと一緒に御輿をかついでいた。僕は、次の祭りでは僕も輪の中に参加したいと思いながら、通りからその様子を見ていた。近所のコワモテのおやっさんたちから声をかけられたりして、彼らはすっかり街に溶け込んでいるようにさえ見えた。若い人が少ない街にとって、それはとてもありがたいことなんじゃないだろうか。同時に、この古い街とつきあっていくにはしっかりとした人格や品格、そしてタフさが大切だということを、改めて思う。江戸っ子のおやっさんたちは、やっぱけっこうコワそうだ。

祭というと、とても賑やかな雰囲気を想像したいのだが現代の東京のオフィス街の日曜日、平日よりも閑散としているのはいなめない。祭への参加者も2年前からずいぶん少なくなったと聞いた。 とはいえ天気のいい5月の夕刻に、東京のオフィス街を御輿とはっぴ姿が練り歩く。とてもいい時間だった。余談だが、阿野夫人のはっぴ姿があまりにかわいくて目がくらみそうだった。こういうときに、寂しさが込み上げてくるのだった(笑)。

今度、REALTOKYO主催で、「東京イーストエンドツアー」なるものをやってみようかと思う。いちおう6月14日(土)を予定している。

僕もボードメンバーの一人として加わっているR-projectの一環として、日本橋、中央区が新しい文化の震源地にならないか、ということで活動をしている。(その内容は、菅付さんが編集長を務める『インヴィテーション』2号「東京カルチャーの発火点」に詳しい)その現状をレポートするようなツアーにしたい。

新川には新しいギャラリーができた。八丁堀にもちょっと変わったオルタナティブスペースができた。日本橋小伝馬町にも上記のような動きがある。

江戸の「中央」であったはずの地域にもかかわらず、今までは西に文化を持って行かれていた感のあるエリアだが、そこでは変化の兆しが見えはじめている。

R-bookで紹介したNYのチェルシーのようなことが、果たして東京でも可能なのだろうか?

大学院では地域論を書いていた僕にとって、街が新しい方向に向かって動き始める状況を見届けたいし、その状況にコミットしていきたい。そうしなければ、動きながらではないと本質も見えてこないと思うから。単体の建築ではなし得ない、都市への貢献の方法や戦略が浮かび上がってくる。今まで東京にはそういった視点が欠け過ぎていた。ひたすら右肩上がりの経済状況のなかでは仕方がなかったことかもしれない。僕らはつくることに必死だった。でも時代はそうではない。

ただ、このツアーでは、そういった光の部分、前向きな部分のみをクローズアップしていくつもりいはない。影の部分もしっかり伝えたいと思っている。オフィスビルの空室率が30%を越えているような街並み、にもかかわらず、それらの物件がなかなか市場に出回らないミステリー、保守的な金融業界とこのエリアとの関係、外資の進出、時代の狭間にいやおうなしに立たされる地権者……。

この街を見ることは日本の縮図を見るようだ。動かなければいけないことはわかっている。しかし過去の足かせがそれにブレーキをかける。とても中途半端な状況にある。

さて、こういった状況のなかで何ができるのか。どういった具体策を描けるのか。それを一緒に考えるようなツアーにできればと思う。

REALTOKYOにどういう読者がいるのかよくわかっているわけではないけど、金融関係の方や不動産企業の方、行政の方など、そういった人にもぜひ参加して欲しい。社会システムのインフラをわかっている人々、それに近い人々の知恵や経験なくして街は変わっていかない。いわゆるクリエーターと呼ばれるような人々が何かを発見し、そこに可能性を見い出す。でもそれだけでは大きな動きは起きない。経済やシステムがそれと併走しなければならない。都市のダイナミズムはその共振によってこそ起こる。今までの日本は、それが別々の場所にあった。お互いが外へ踏み込まなければならないと思う。

ツアーの後には、RT barが準備されているようです。

小崎さんをはじめ、R-projectのメンバーなども参加してアルコールを入れながらのラフなトークセション。

詳しくは、近日、REALTOKYOでアップします。

 

追伸

この編集長日記でもおなじみの菅付雅信編集長率いる雑誌『インビテーション』(ぴあ発行)で、ダニエル・リベンスキンド/グランドゼロ論を書きました。

ちなみに「戦時下のニューヨーカーたち」この特集、おもしろい。今という時代を考える上で保存版の一冊だと思う。

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「東京イーストエンドツアー」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)