この連載がきっかけで、一つの家/建築ができあがった。
昨年、僕が教鞭を取っている山形の東北芸術工科大学でエコハワスを設計している記事をここに書いた。二酸化炭素の排出をできるだけ抑えた木造住宅で、高断熱高気密、太陽光発電とバイオマスで、家で使うエネルギーのほぼすべてをまかなう、これからの時代の住宅のモデルタイプだ。
ある日、「オルタナ」の森編集長から突然、「蔵王にオルタナハウスを設計する気はないか」と電話、があった。あまりの唐突きに僕はキョトンとして、「いいですけど、そもそもオルタナハウスって何ですか」という、チグハグな会話が行われた。それがこのプロジェクトの始まりだ。
リーズナブルな価格で、人々が建てやすく、もちろんエココンシャスで、デザインも優れている、オルタナという言葉を冠するにふさわしい家。オルタナハワスとは、この時代にふさわしい「新しい価値観の家」のことだった。
1500 万円以内、という予算的な縛りがあったのが、今考えればよかったと思う。そのなかで何が可能かを考えることで、削ぎ落とされたシンプルな家ができあがった。国産の杉材を主な構造部に使い、一部コスト削減のために2 × 4(ツl パイフォl)の輸入材をハイブリッド。壁などは天然素材の珪藻土を塗り、その独特の質感は空聞をやわらかく包んでいる。
このコストにもかかわらず3キロワットの太陽光発電を搭載し、使用する半分程度のエネルギーをまかなう。25坪以上ある空聞を、冬でも家庭用のエアコン一個で暖かくできる。
外壁は杉材。ちゃんと手入れをしながら、木の経年変化と付き合う家のあり方を聞い直したい。この素朴でシンプルな存在感の家は、果たしてどう見えるだろうか。
*こちらの記事は季刊誌『オルタナ19号(2010年5月31日発売)」に「政治を変える『透明な市役所』」というタイトルで掲載された記事です。
(文=馬場正尊)