大阪・道頓堀の空地に設計をしていた「角座」が7月末日にオープンした。 かつて道頓堀は上方の演芸の中心で、そこには、浪花座、中座、角座、朝日座、弁天座と「五座」と呼ばれる芝居小屋が存在していた。しかしいつしか道頓堀は演芸の色が薄まり、角座も壊され空地になっていた。 そこに半仮設的な劇場をつくり、道頓堀の演芸復活のきっかけをつくろう、というのがこのプロジェクト。実現まで紆余曲折あって、かれこれ3年以上かかっている。
新しい角座の最大の特徴は、街にオープンであるということだ。劇場の中はガラス張りで外から丸見え。劇場の活気や気配が街ににじみ出るようなつくりになっている。 芸人たちがリハをしていたり、スタッフが舞台を建て込む様子が垣間みえる。それが今から始まる笑いを予感させる。舞台が跳ねた後は、観客とともに余韻が広場に漏れ出る。ブラックボックスではなく、あえて街に開いた劇場だ。 劇場空間には独特の色気のようなものがあって、それは映像ではなかなか伝わらない。生き生きとした舞台ならではの魅力を、通りを歩く人々に身近に感じてもらいたかった。
前の広場は劇場と街をつなぐオープンエアのホワイエであり、同時に道頓堀の新しい公園でもある。舞台の前後に一杯やってもいい。劇場に用がなくてもフラリと立ち寄ることも自由だ。通りの延長のように、広場も劇場と同じように街に開かれている。
さまざまな飲食の屋台が集まり、大阪の旬の食べ物が出る。そのラインナップも味も、およそ屋台とは思えない。例えば夏の夜風にあたりながら冷えたビールをぐっと飲む、冬にスはトーブにあたりながら熱いスープを味わう。道頓堀のネオンを感じながら、喧噪のなかで過ごす時間をつくりたかった。 もしかすると、芸人が屋台で店員をやっていたり、突然コントを始めて居合わせた客を笑わせたり・・・。この広場ならではの意外な出来事も起こるかもしれない。楽しむ側も、楽しませる側もごっちゃになった、さまざまなハプニングが起こる、そんな笑いの広場になればいい。一年じゅう縁日をやっているような空間だ。
角座再生に合わせて、松竹芸能のオフィスやスクールも劇場の隣に引っ越してきた。道頓堀を会社全体で盛り上げようという覚悟の現れだと思う。スクールに通う生徒も、オフィスで働くスタッフも、常に生の笑いの現場を目の当たりにしながら過ごすことになる。
最初は劇場だけだった計画は、いつの間にかにどんどん大きくなり、建物のなかに入りきれなくなった。外に追い出されたのはなんと社長室で、トラックの改造した、これまた丸見えの部屋になった。劇場も、広場も、社長室もすべてオープン。道頓堀に開いて行く。 この角座と広場から、新しいお笑いが街全体に広がってく、そんなイメージを持ちながらこの場所をデザインした。
現在、角座とその広場は連日、にぎわいを見せているようだ。新しい笑いと、上方の演芸が再び、この場所から育って欲しい。 道頓堀のど真ん中、ぜひ立ち寄って下さい。