桜城橋橋上広場













桜城橋橋上広場
時期:2020.1~2022.3
所在地:愛知県岡崎市
クライアント:岡崎市
規模:196.20㎡
用途:休憩所
設計:馬場正尊+野上晴香+石母田諭/OpenA
企画:三菱地所株式会社+株式会社三河家守舎+OpenA
撮影:石母田 諭
このプロジェクトは「QURUWA戦略」という、市内にそれぞれ点在する公共空間を「Q」の字で結び、エリア全体で連鎖的な活用を促す大きな都市政策の中に位置づけられている。
対象敷地である桜城橋橋上広場は、岡崎城下を流れる乙川に架かる全長121.5m、有効幅員16m、面積2000㎡の広大な橋上の都市公園だ。
名鉄東岡崎駅から中央緑道・籠田公園までを繋げる大きな遊歩道的ランドスケープであり、QURUWAのなかでも単なる通過動線でなく目的地として、人々の流れをつくり拡げる結節点となることが期待できる場所だった。
橋は計画当初から災害時の緊急車両通行や将来的な建築が想定されていたため、余裕を持った荷重計画や建築用の基礎が施工されているなど、日本の都市計画には珍しく余白や可能性を残した設計がなされていた。
そして2020年1月に橋上広場を敷地にPark-PFIによる事業者公募がおこなわれ、地元岡崎で活動する三河家守舎とチームを組んだことがその後の展開につながっている。
三河家守舎の代表 山田高広さんは、「森、道、市場」という全国から500以上もの店舗が集まる巨大な野外マーケットと音楽イベントを主催する剛腕の持ち主だ。その日本有数のネットワークを利用してさまざまな人が入れ替わり立ち替わりで出店できるような場所を、非日常性のある橋の上に生み出し「岡崎の心象風景をつくり、次の世代に引き継ぎたい」という熱い想いをもっていた。
橋の上だからこそ可能な長く大きな屋根とカウンター。そこに複数の店舗が並び、さまざまな人や出来事が交差することで偶然の出会いや一人ひとりの拠り所が生まれる。そんな最高のプライベートが味わえるパブリックな風景が実現できたら面白いと考えた。
基礎の位置や建物の最高高さは橋の建設時から決まっていたためシンプルな構造ではあるが、軒天を橋の両外に向かってせりあげることで、乙川を通る風や変化していく空や川の模様、周囲の気配を最大限に取り込んだ風景や居場所を感じられるよう、できる限りオープンな設計とした。
同時に短い期間ながら木製フレームのモックアップや可動式ファニチャーを橋の上に組み上げ、人々の振る舞いを観察するための実証実験を行った。橋を通る人たちがふらりと立ち寄り気軽に去っていく、そんな行動がごく自然に起こるための仕掛けを施すため。そして床がフラットではなく、中央に向かって湾曲する橋ならではの特性に対応するため、屋根やカウンターのレベル合わせの検証を何度も行った。
ハード以外の部分でもPark-PFI制度のテクニカルな解き方を試みている。
通常Park-PFIで整備される施設には、行政投資で整備する「特定公園施設」と民間投資で収益活動を行える「公募対象公園施設」があり、この2つは明確に分けて建築されるのが一般的だが、このプロジェクトでは、恒久的な大屋根を「特定公園施設」、その大屋根の下に利便性を向上させるためにつくられる仮設的な内装を「公募対象公園施設」として入れ子状に整備。スケルトン・インフィルの考え方を用いる前例のない整理を試み、公共と民間の責任境界線を再定義した。関わる人たちに強く思い描く風景があり、それを法律でどう解釈すれば実現するかを考える、逆算の発想だからこそ発見した手法だった。
ところが、2020年の市長交代やコロナ禍も重なり、突然プロジェクトは凍結。
その後の紆余曲折の末、建設できるのは特定公園施設建設のみとなり、公募対象公園施設は実現できないことが確定したが、未来への手がかりと記憶を残すためにも、大屋根だけが立ち上がることを前提とした引き算の設計変更を行った。
現在、この空間は橋の上の休憩所や、地元の方が主催するイベントやマルシェの場として活用されている。完成形の風景を知っている僕らには未完成に見えているが、背景を知らない市民には完成形に見えているかもしれない。
それでもフレームを手がかりに使う人がカスタマイズできるような仮設的で工作的な空間をイメージしていた分、当初思い描いた構想から大きなギャップはなく、心象風景のきっかけとしての役割は果たしているのかもしれないと、この場所を訪れる方々の様子を眺めて思うところがある。橋の上から望む岡崎の風景も、乙川から眺める橋上の活用の様子も、とてもドラマチックだ。
さまざまな状況を許容できるこの建物は、投資さえあればいつでも事業が始められる状態のインフラが整っている。こうした活動の先に、もしかしたら全く異なる枠組みで再解釈され活用される可能性も大いにあるのかもしれない。(馬場正尊+石母田諭/OpenA)