有楽町SAAI 移転計画
有楽町SAAI 移転計画
時期:2022.09~2023.10
所在地:東京都千代田区丸の内
クライアント:三菱地所株式会社
規模:延床面積:755.840㎡ (1F:359.96㎡ / B1:269.88㎡ / 4F:126㎡)
設計・監理:大橋一隆+福井亜啓/Open A
共同設計・監理:YND ARCHITECTS 米田真大
電気設備設計:one and one 福島颯太/機械設備設計:株式会社 NoMaDoS 高橋良輔/照明設計:Light Range 須方宏明
撮影:楠瀬友将
有楽町の街に生まれる新しいビジネス横丁
有楽町エリアの再構築に向けた先導プロジェクトとして、2020年3月に「新有楽町ビル」を拠点にスタートした「 SAAI -Wonder Working Community- (以後、SAAI)」。 三菱地所が事業主体の会員制インキュベーションオフィスとして約4年間運営を続けてきたが、新有楽町ビルの建て替えに伴って施設を移転することとなった。本計画は、約4年間の実働から得られた知見を活かし、施設としてのアップデートを目指した移転プロジェクトである。
移転先は、新有楽町ビルの2区画隣にある「新東京ビル」。新有楽町ビルと同年代に建設されたオーセンティックな内観が特徴的なビルだ。新有楽町ビルでは施設が1フロアに完結していたが、今回の移転区画はメインフロアとなる地上1階のほか、地下1階、4階にフロアが分散する。今回の移転プロジェクトでは、既存のあらゆる造作や什器を最大限再利用することを前提にプランを構築していった。
メインフロアの1階は、大きく2つのゾーンで構成している。まず、街路に面するオープンなワークスペースは、働く人たちの様子が一目で分かる、全員が空間の中心に向かうような求心型のプランニングとした。執務スペースとしてお互い適度な距離を保ちながらも、皆が同じ場所でワークしているという一体感が感じられる空間となっている。また、街路から向かって奥側の空間には、SAAIの象徴であり会員同士の交流を促す「Bar変態」やプレゼンや議論ができる空間「Stage」などの主要な機能をそのまま移設。旧SAAIの雰囲気を踏襲する空間としている。
フラットな空間の中に配置された島型の什器、窓際のベンチシート、ミーティングブースなどの執務スペースにおいては、少しずつ高低差を設けることで地形のような立体感をつくり、空間をゆるやかに分節している。それにより執務する人たちのお互いの距離感や視線をコントロールし、近接しながらも心地よい執務空間をつくり出すことを意識した。
地下1階は、1階の執務スペースを補填するために、機能性を重視して什器を配置した。さらに会議室や和室といった機能も配している。4階には、法人登記も可能な個室や個人席ブースといった事業性重視の機能を集約させた。
3フロアそれぞれに必要機能を分散させながらも、全体を通して旧SAAIの記憶を継承するようなデザインで空間全体に統一感を持たせている。亜鉛メッキやSUS鏡面仕上げなどの金属を什器や各部仕上げの共通マテリアルとし、それらに内装の色味や照明の光、行き交う人々が映り込むことで間接的に風景が混ざり合うような空間に仕上げた。
SAAIのプロジェクトを振り返ると、新有楽町ビルでの開業時期はちょうどコロナ禍であったのに対し、今回の移転プロジェクトはコロナ空けの直後であった。そうした社会の過渡期を経て「働く場所をどのようにデザインするか」という問いが本プロジェクトの根底にあったように思う。これからのオフィスは、ただ働くための場所ではなく、人に会うため、出会うための場所としての機能が求められていくのではないか。路面に移転し、開放的なワークスペースとしてアップデートした新たなSAAI。街を訪れる人たちに、そんな新しいオフィスあり方について気づきを与えてくれる場になることを期待している。(福井亜啓/Open A)