iti SETOUCHI

iti SETOUCHI

時期:2020.02~2022.09

所在地: 広島県福山市

クライアント:福山電業株式会社

規模:延床面積(B2F〜9F) 72,635.20㎡

設計:馬場正尊、平岩祐季、西川貴大、土屋柚貴、瀧下まり、竹内咲恵子、和久正義/Open A

施工:ミタカ+SHOコーポレーション

撮影:楠瀬友将

屋根のある公園

数多くの地方都市で百貨店が廃業し、建物が使われないまま巨大な空き家として放置されている。街の消費の象徴が、郊外移転やオンライン化による産業構造変化の象徴となってしまった。福山駅近くのこの建物も典型的なそれで、かつては「そごう」(2000年廃業)だった。

総面積約70,000平米、解体するにも、再び使えるように設備を入れ替えるだけで莫大な投資が必要となる。地方都市にそれだけの投資を担える事業主体はもはやおらず、にっちもさっちもいかないまま放置される運命にある。

このプロジェクトは、大きな割り切りをすることで膠着状態を抜け出すためのひとつのモデルである。

その割り切りとは、

・街と接するグランドレベルだけを再生し、上階や地下には一切手をつけない(法的には上階は巨大な天井裏、地下は巨大なピットと解釈し、全館を利用する場合に更新する必要のある設備機器のコストを削減する)
・1階の外壁をぶち抜き、室内を半屋外化。屋根のある公園のように見立てる。
・全体の機械空調はなし。既存エスカレーターの吹抜けを使った重力換気などの自然通風と、小さなスポット空調のみ。
・残置されたエスカレーターや既存仕上げを、オブジェやパターンとして楽しむ。
・竣工と言う概念を放棄し、運営者がテナントや客と共に空間をつくり続ける。

数々の発想の転換により、街の巨大なボイドは、公園なのか商店街なのか、定義の難しいセミパブリックスペースとなった。

街との連続性を助長する工夫として、公開空地を室内に引きずり込み、通り抜け道路のように見立てた。抜いた壁面の代わりを存在が曖昧なビニールカーテンとし、街行く人々が迷い込みやすくした。

もちろん、これが決定的な解答であるとは思っていない。ただ、動かないことが人々の諦めを呼び、地方都市の硬直をさらに進めてしまう。横たわる巨大な塊に風穴を開け、工作的に使いながらつくり続け、関わる人々を増やしてゆく。それはいつしか集合的な経験知となり、次の段階への創造へ繋がっていくと信じている。(馬場正尊)

iti SETOUCHI誕生のプロセスについては『公共R不動産』にて詳細をレポートしています。

巨大な元百貨店を「屋根のある公園」と見立てた「iti SETOUCHI」の挑戦
https://www.realpublicestate.jp/post/itisetouchi/

「百貨店の公園化」と連動する福山駅周辺のエリア再生
https://www.realpublicestate.jp/post/itisetouchi02/

2023グッドデザイン・ベスト100 に選出されました
https://www.g-mark.org/gallery/winners/20470?years=2023