江北町 みんなの公園

江北町 みんなの公園

時期:2019.10

所在地:佐賀県江北町

クライアント:佐賀県江北町

規模:351.69㎡

用途:公園・交流施設

撮影:阿野太一

原風景とまちの発展

バイパス沿いに大型商業施設と新興住宅地とが並ぶ郊外の環境に、人の居場所をどのように埋め込むことが出来るだろうか。私たちは不確かな周辺環境から適度な距離を取り、まちの記憶を残す御岳山に意識をつなぐという方法を選んだ。そしてさまざまな世代の住民が、まちの原風景を共有しながら過ごせる場所になることを目指した。

地面を丘のように盛り上げ、御岳山に連続するランドスケープをつくり、このおおらかな空間の流れを受け止める43mのCLT屋根が、交流スペースとカフェを包み込む。公園の中に生まれた丘は、コンクリートの地層として通りに現れる。その断面を通り抜け公園にアプローチすると、宅地の中に浮かび九州の強い日差しを遮る1枚の大屋根が迎えてくれる。交流施設で生まれる情景の重なりがファサードとし公園に現れるよう、薄く凹凸のある平面形状とし、デッキによって中央の芝生広場を囲んだ。公園全体を回遊できる園路は、散歩コースにもなり、イベント時には屋台が並ぶ。その周辺には、子どもの遊具やベンチ、市民農園などを配置して、住民の関わりしろを設けた。

公園のあるべき姿を目指して

本施設は、都市公園法が位置付ける公園ではない。法的には交流拠点である。大型商業施設や駐車場に囲まれた環境の中でも住民が気軽に立ち寄れるよう、屋内で完結した施設ではなく建築とランドスケープとが一体になった「公園」のような場所を計画した。その上で、法的な都市公園にしないことで、建ぺい率や都市公園の占用許可に縛られることがなく、民間の運営事業者の巻き込みなどの自由な展開も可能となった。もともと準都市計画区域内に位置するため、都市公園にできなかった背景もあるが、あえて新たな都市計画決定はしなかった。住民にとっては、そのような場所が制度としての公園なのかどうかは関係のないことである。

設計のプロセスでは、住民に向けた意見交換会に加え、子育て世代や民間事業者などを対象にしたワークショップを開催し、新しい公園において「何がほしいか」ではなく「何ができるか」ということを一緒に考えていった。

時間と空間の結び目のような場所

田んぼだった場所が宅地分譲され、風景の均質化が進み、土地の記憶が薄らいでいく中で、それでも人びとの意識を場所の記憶に、かろうじてでも繋つなぎ止めることはできないだろうか。炭鉱のまちであった土地の記憶が染み込む御岳山の稜線と、新しくできた公園のランドスケープを街中に繋げ、古くから住んでいる住民と新しい住民の気持ちもまた繋ぎ合わせ、風景と身体を接続することで、時間と空間の結び目のような場所をつくろうとした。
(馬場正尊+市江龍之介+加藤優一)

 
基本計画・設計・監理:OpenA・ランドスケープ・プラス共同体(設計JV)
           馬場正尊+市江龍之介+加藤優一+清水襟子/OpenA

構造:石橋建築事務所
   多田脩二構造設計事務所

電気・空調衛生設備:近代設備設計

照明 :トミタ・ライティングデザイン・オフィス 

VI・サインデザイン:UMA/design farm
 

▼公園法によらない公園。
住民みんなでつくりあげる、佐賀県江北町「みんなの公園」(公共R不動産)
https://www.realpublicestate.jp/post/minnanokouen/