こころざしのもり/佐賀県立図書館と公園をつなげるリノベーション
こころざしのもり/佐賀県立図書館と公園をつなげるリノベーション
時期:2018.04
所在地:佐賀県佐賀市
クライアント:佐賀県
用途:図書館・公園
デザイン監修:加藤優一、清水襟子
佐賀城公園のエリアリノベーションは、計画的に始まったものではない。連鎖的プロジェクトのきっかけは「勝手にプレゼンフェス」。佐賀に縁のあるクリエイターたちが、数年前に始めた企画で、県の政策や事業に関するアイデアを、文字通り勝手に公開の場でプレゼンするものだ。非公式なものだが、県知事も職員も面白がって聞きにきてくれ、ユニークな提案が政策とフィットすれば、事業化の検討に進むこともある。気がつけば県庁の夏の恒例行事のひとつのようになっている。この数年、佐賀県で次々と興味深いプロジェクトが立ち上がる要因はここにある。とても風通しがいい状況なのだ。
2017年のプレゼンフェスで僕たちが提案したのが、佐賀城内のエリアリノベーションだった。
城内地区は、佐賀市中心部に位置する旧佐賀藩の城下町で、濠に囲まれた約48haのエリア。城内とはいえ、天守閣もないから城跡っぽくない。そのためか県庁や図書館、博物館、美術館などの公共施設のほか、学校や普通の民家もモザイク状に散らばっている。他方、市民の利用は少なく、多くの人は郊外のショッピングセンターで日常を過ごしている。豊かな空間が身近にあるにもかかわらず、城内の高校に通っていた僕でさえ当時はその魅力に気がついていなかった。可能性が日常の中に埋没してしまっているのだ。
提案したのは、このエリアを文化・芸術の拠点と捉え直し、市民が日常的に集える居場所へと転換すること。折しも既存施設は築50年を経過し、補修や機能の再編が必要な時期に重なった。
最初に担当したのはトータルディレクションという事業で、エリアのビジョン策定に加え、実現に向けた各施設のデザイン監修や関係者との調整を行なうものだった。この時、縦割りを越えた調整が可能になったのは「さがデザイン」というちょっと風変わりな部署の存在が大きい。あらゆる政策にデザイン思考を取り入れるという知事の意向によって設置されたこの部署が、クリエイターとの橋渡しや部署間調整を行う。少人数で機動力が高いのが特徴で、おのずと行政マンらしくないメンバーによって構成されている。彼らによって、事業の柔軟性や横断性が担保されているのだ。
提案から3年、エリアリノベーションは段階的に進んでいる。図書館と公園を繋ぐリノベーション、使われていなかった県庁地下を市民に開くためのカフェの誘致や、執務室のデザイン、バラバラだったサインのリニューアル(UMA design farmと協働)など、設計にとどまらず、エリア全体のデザイン再編を行っている。この先には、城内を歩くきっかけとなる拠点整備や園路のデザイン、県庁前の広場及び駐車場の改修など、点の変化を面展開していくプログラムが計画されている。
これらの仕事は必ずしも系統立って遂行されているわけでもない。さまざまな部署から、バラバラに相談が寄せられる。案件に応じ、設計公募に参加することもあれば、設計者が決まっている事業の相談役を務めることもある。行政の外部にいる僕たちは、なんとなく政策の全体が見渡せる。エリアのツボのような場所を発見し、そこにデザインの針を打つことで、人々や情報の流れを活性化させる。気づけば、政策とデザインの主治医のような存在になっている感じだ。行政組織の宿命で、担当者は短期間で異動してしまうから、彼らの意思を引き継ぐ語り部の役割を感じることもある。
現在、公共案件における建築家のエリアへの関与は、発注システムの課題もあり、建物単体の限定的になりやすい。この事業では、僕たちがエリアのビジョンを立て、小さくても継続的に仕事をし続けることにより、全体性へ関与することができている。この仕事を何と呼ぶべきかまだ分からないけれど、状況が揺れ動く時代において、総合的・客観的なパートナーとして地域をデザインしていく手法を模索している。(馬場正尊)