THE NATURAL SHOE STORE
THE NATURAL SHOE STORE
時期:2007.02
所在地:東京都中央区勝どき
クライアント:株式会社ダイマツ
用途:オフィス
このオフィスは、静岡に本社を持つ靴の製造・輸入販売メーカーの東京支店である。およそファッション業界のオフィス立地には似つかわしくない、勝ちどきの倉庫街に忽然とある。かつては青山に小さなオフィス兼ショップを構えていたが、小さい上に家賃も高く、その空間では企業コンセプトである「心地よさ、快適性」のような質感を経験させることができなかったらしい。クライアントは発想を転回し、常識的な立地を諦め圧倒的な世界観を選択してくれた。サッカーでは「ホーム・アンド・アウェー」という考え方があって、ホームグランドでの戦いは敵地で闘うよりも有利に働く。仕事も同じで、ミーティングに行くよりも、来てもらうほうが自分たちのペースでやりたいことがちゃんと伝えられる。勝ちどきという一見不利な立地を跳ね返してホームに持ち込むには、相手に来て貰う理由をつくらなければならなかった。そのために考えられたのがこの仕事場だ。
身体性に準拠した働く場所をつくる試みを行うには、靴メーカーのオフィスはうってつけのように思えた。「履き心地」という言葉に端的に表れているように、靴は身体の一部のようなもので、それを製造・販売しているワーカーたちは、あらかじめ身体性に敏感だったからだ。ごく自然に居心地のいい空間を一緒に考えることができたし、その設計思考は大勢で使うリビングルームをつくるような感覚だった。確かに居住性を重視するならば、それは自然なプロセスである。
とはいえ、巨大な倉庫をオフィスとして使うにはさまざまな困難が伴う。まず空調が最大のネック。断熱もない巨大空間をまともに空調すると膨大な光熱費がかかる。そこで考えたのは、倉庫の中にガラスのキューブを置いて、中だけを空調すること。4トントラックも出入りする幅6mの巨大なドアを開ければ、そこはほぼ屋外だが、全面にフローリングを敷きつめ、裸足で歩かせることで人はそこを室内と認識する。内と外の中間領域をつくることで、庭のようでもあり、巨大なリビングのようにも感じることができる。靴の会社にとっては試し履きの空間でもあるわけだ。
ガラスキューブがゴロンと置かれ中央にバーカウンターが設置されている。そこをコミュニケーションの中心としながら、「水辺のテラス」や「半屋外のラウンジ」にデスクやミーティングテーブルが散在する。人々は能動的に働く場所を選択することができる。時に寝ころびながら、時に運河の風や陽を浴びながら仕事をすることが可能で、おのずと流動的に空間を使ってくれるのではないかと思っている。
オフィスのオープニングパーティーのとき、彼らはまさに空間を使い倒していた。白い壁全面にプレゼンテーション映像を照射し、ゆったりした音楽が流れ、運河からは心地のいい風が流れてくる。「ホームの利点」を活かし、企業の世界観が存分に表現されていたと思う。「まるでオフィスに見えないね」とたくさんの人に言われたが、オフィスの既成概念を壊すことからしか、その再編は行われないと思っている。
<『新建築』2007年6月号より抜粋>